窓から入る太陽の光に反射して鈍く黒い光を放つ刃に親指を当てた。すっと手を手前に引くと、まっすぐ綺麗な線のように出来た傷口から赤い血が流れる。さほど痛みもない。ほぉ、と息を吐いて感嘆する。
「本当にいい剣だな」
「それが僕の足に刺さってたって考えるとぞっとするよ」
ベッドに腰をかけ、自分の右足に包帯を巻きながら、眉を潜め溜息をつくように吐き捨てるイヴェールは本当に顔を青くする。昨夜の痛い記憶を掘り起こしてしまったのだろう。しかし、傷口が化膿しなかったのもこの剣の質の良さのおかげだ。
エストックのようだが、片手で十分なほど軽い。柄頭から切先にかけて全身が黒く、角度を変えると赤黒い光が目を指した。随分丁寧に手入れされてるのか、それとも本当に新しいのか、刃毀れも錆も見当たらない。何故これほどのものをあんな小さな賊達が持っていたのだろうか。
「随分気に入ったようだね」
「そうだな、売り飛ばすには少し惜しい」
「やめてくれよ、見るたびに恥ずかしさで死にたくなるんだから」
包帯を巻き終え、ベッドに倒れこみ顔を枕に埋めてしまった相方に対して少し笑ってやる。剣をテーブルに置き、ベッドに近づいてイヴェールのすぐ横に腰掛けた。さらさらとシーツの上を流れる銀色の長い髪に触れるか触れないかの所に身体を支えるために手を置き、覆いかぶさるような体制になったので、自分の身体によってイヴェールの顔に影がかかる。こちらの存在に気付いて枕を握り締めながら顔上げたイヴェールの頬は少し赤かった。
「かっこ悪いな、取り乱しすぎた」
「誰だってそうなる」
「死を恐れてた」
「俺だって怖いさ」
苦笑いで親に叱られた後の子供の様な声で言うイヴェールの頭をからかう様にくしゃくしゃと撫でてやると、眉を潜めながらも目を細め小さく笑うので、その様子が少し猫に似てるとくだらないこと考えた。
生の温もりは死の冷たさに恐怖を生み、死の暗闇は生の光への執着心をかき立てるものだ。生きてる限り死はどうしようもなく付きまとう。だが、あまりにそれが当たり前だから人は皆その存在を忘れてしまうのだ。このように死に対して緊張感を持てるのなら、それも悪くはないことだろう。
「死ぬのが怖いのは生き甲斐があるからだろ」
そう言ってやると細めてた目をぱっと開き、きょとんと驚いた様な顔をしたあと、ぷっと吹き出しそのまま声を上げてイヴェールは笑う。
「お前は哲学者にでもなるのか?」
「おいおい、からかうなよ。折角慰めてやろうってのに」
「あっはは、ごめんごめん、ありがとう」
お前のおかげで助かった、と素直に笑うイヴェールを見て、安堵の様な溜息をひとつついて、こちらもも同じように目を細め笑った。
(きっとそれで十分なのだろう)
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書いた時、別に続けるつもりはなかったんだけどね。
後日談程度でいいと思うよ。