その大広間を彩る装飾の豪華さと、手を取り優雅な三拍子でワルツを楽しんでいる紳士や婦人達の華やかさには眩暈がしそうであった。これではオークションが始まる時間帯にはばててそうだと、そんなことがふと過ぎり、しかしそういうわけにはいかないので、静かな場所を探したのだが見つからず、今は壁に寄りかかり腕を組んで皮肉なくらい楽しそうな空気を眺めている。不自然だから適当な婦人の相手でもしてろだの、少なからずは動いてろと言われたのだが、慣れない空気は重いのだ。加えて着慣れない堅苦しいスーツ、さらには目元を隠す仮面が全くもって不愉快だ。
 
 どうやら金持ちは自慢の娘の誕生日には迷惑千万に周囲を巻き込み盛大な祝い事をするらしい。その金持ちの名高い芸術収集家がその日に、それはもう高価な珍品達を揃え競り売りをするというので心を躍らせたが、しかしオークション参加にはその前に開かれる娘への祝福のパーティに参加しなければならないという面倒が付き添った。そんなくだらない祝福のために開かれた仮面舞踏会の参加者には、結局のところ商品目当ての貴族やらが多いのだろう。何処の世界でも付き合いとは有効活用するものだ。もちろん、商品目当ての参加は自分達も変わりはないのだが。
 ただし競り落とすのではなく盗るのである。このために、珍しく他の同業者と手を組んで面倒な作戦を練り下調べまでし、挙句招待状の偽造までさせられたのだからたまったものではない。大掛かりな仕事は好きではないのだ。イヴェールと俺と二人組という少人数で普段やってきたことも理由にあったが、こういう華やかさは癇に障る。相手の賊達は信用ができないわけでもないし、戦利品の一時的な保管役に俺等を使ってくれたので、気分次第で盗品全部持ってばっくれられるのはこちらなのだから、全く文句のない話ではあるのだけれど。
 
 
 
 
「随分と気分が悪そうね。仮面をつけてても表情が読めるほどだわ。踊る相手が見つからなかったかしら?」
 
「あ、いや・・・」
 
 
 完全に思考を別の方向で向けていたので、ふと話しかけてきた婦人に驚き慌てて向き直り、さっと切り抜けられるいい返答はないかと考えていると、ふと思考がそのまま止まった。ぽかんとしていると、つけていた白い仮面を細い美しい指先でそっと持ち上げ、その中から除き嫌味そうに笑うのはオッドアイの赤と青の見慣れた瞳であった。
 
 
「・・・お前」
 
「不自然だぞローランサン、もっと紳士的に笑って立ってろ」
 
 
 そっと耳打ちされた声は紛れもなく男の声である。時間差で会場に向かうことになり、俺と他の奴等が先にこちらに着き、イヴェール達は後から向かうとは聞いていたが、まさかこんな格好の相方に再会するとは思わなかった。普段、深い紺のリボンで束ねらた銀髪は束縛から解放されそっと肩から流れていて、顔にはほんのり化粧の香りがした。中性的な顔立ちだとは思っていたが、淡いブルーのドレスを着こなし、形のいい鼻から上は白い仮面を着けた姿は、所謂、魅力的な女性というものであった。
 
 
「コルセットも着けてるのか?」
 
「まぁな。死にたい気分だ」
 
 
 さらっと言いのけたイヴェールに少しばかり恐れを抱き、話を聞いてみるに、どうやらこいつの他にもう2人その犠牲になっているらしい。名前を聞いて顔を思い出し、げっそりとやせ細った気持ちになる。男が女に化けると聞いただけで寒気がするというのに。それに比べれば、まぁイヴェールはまし方なのだろう。
 
 
「よくやるな」
 
「ビジネスだからな」
 
「遊ばれてるだけじゃないのか?」
 
「サービスも必要だろう」
 
 
 冗談っぽく笑う顔を見れば、どうやら今回の仲間のメンバーとはうまく打ち解けているらしい。ボーイからシャンペンを受け取り優雅に口に運ぶ姿は見ていて明るかった。
 
 
「ローランサン、現状を楽しめない人間は損するぞ」
 
「こういうのは好きじゃないんだ。堅苦しい作戦とか、作法とか。ワルツの踊り方だって知らない」
 
「僕も知らないよ。リードされ方は」
 
「そりゃ気の毒だな」
 
「ベランダに出られる場所なら知ってるけど」
 
 
 そう言うとイヴェールは軽く上品に手を挙げ、シャンペンをもう一グラス受け取り、今度はこちらに差し出した。そういえば屋敷の下調べ役はイヴェールだった、などと今更なことを考え、流されるような状態でそれを受け取ると、こつんとイヴェール自身が持っていたグラスをこちらに軽くぶつける。グラス同士のいい響きを聞きながら、薄く笑った淡い色の口紅の塗られた唇を見ると、仮面の奥の瞳もいつもの様に綺麗に光を帯びているように思えた。「僕達にはちょっと似合わなかったかもしれないな」とそう小さく呟き、さっと向き直り手を自分の頬に当てたいヴェールを見て、全く、と溜息をつきながらイヴェールの肩に手を添える。
 
 
 
 
「気が重いわ、少し酔いが回ってきたのかしら」
 
 
「私も調度夜風に当たろうと思っていたのですが、良かったらご一緒に」
 
 
 
 
 本当に女の様な声を出したイヴェールに驚きながらも、こちらも少し胃の中のものを吐き出したくなるような台詞を口から出して、見よう見真似で相手に手を差し出した。満足そうに微笑んだイヴェールは上品なそぶりでこちらの差し出した手に頬にあった自分の手を添えた。
 
 
 優雅に唇を持ち上げて見せても、仮面の中ではお互い維持の悪い瞳の色をしているのだろうと思う。なんたって本番はまだこれからなのだから。そして俺達には台本など必要ないのだから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(さぁ、アドリブを演じよう)
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うちの盗賊sはノリと勢いで仕事する、所謂反面教師です。
とりあえずハロウィンを祝ってみる。
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