朝日に気付いて目を覚ましたとき、既に僕の隣でローランサンは起きていた。上半身だけを起こし腰から下は僕と同じシーツに包まれながら、彼は自分の太ももを台にして、肘を立て、両手で自分の顔を覆い、そして暑さのせいでシャツに覆われていない男らしい角ばった大きな背中を、まるで何かに嘆くように、あるいは叱られた子供のように、丸め込んでしまっていた。
僕はローランサンをまだ眠たげな眼差しで少しも音を立てないように見つめ、そして声をかけようか迷う。正確に言うならば、僕が迷ったのは声のかけ方であった。
このようなローランサンの姿を僕が始めてみたのは、彼と生活を始めた約1ヵ月後のことで、その時は普通に声をかけたのだ。おはよう。そうしてやると、彼はすぐこちらの世界に戻ってきてしっかりと僕を見ながらぶっきらぼうな朝の挨拶をしたのである。しかし3回目あたりでは、声をかけても僕の顔を見て同じような朝の挨拶をするだけで、瞳の色はまったく別の色に染まっていた。僕の銀色の髪は彼に映っていなかったのだ。
そして、その瞳は僕に孤独を押し付けるのである。それは僕にとっては確かな恐怖であり、同時にあらゆる事象に対して僕は悲観的にならざるをえなかった。
どうしようもなく臆病になっている自分を騙しながら、僕は寝たふりをして、足の位置を少しずらしシーツを少しだけ引っ張った。薄目を開けてみれば、案の定、ローランサンはそれに気付き我に返ってこちらを見た。しかし彼にとって僕は寝ていて寝返りをうっただけである。すると、彼の筋張った腕が伸びてきて、僕の頭をゆっくりと撫でた。子猫を撫でながら、それでもその子猫がいつ自分に怯えて逃げてしまうのかを恐れているような手つきであった。危うく彼の瞳が、自分の睫で覆われた狭い視界に入ってきそうになったので、慌てて観察を中断して目を閉じた。しかし、目を閉じたら辺りがあまりにも真っ暗な闇の中でしかなかったので、驚いて反射的に目を開けてしまった。
しかしそれでも、ローランサンがまた罪悪感を含んだ瞳で僕のことを見てるふりをし出すのかと思っていたが、今は逆に僕が起きたことに驚いたのかその瞳に僕をしっかりと写していた。不覚にも安堵する。
「起きてたのか?」
「どうだろう」
僕が曖昧に答えて笑ってみると、ローランサンはいつものように眉を潜めた。僕は彼のその困った顔が好きだったが、僕の頭に置かれていた手を、自分の行動に反省するようにひっこめてしまう彼を少し残念だと思った。
そして何故か少しずつ、また僕を見ないようになりそうになったので、落ち着いたふりをしながら急いで言葉を繋いだ。
「怖い夢でも見て泣いてた?」
わざとおどけた風に言って見せると、彼ものってくれたようで、呆れたように溜息をつき「やっぱり起きてたんじゃないか」と苦い口で言った。それに対してくすくすと笑って彼を見ると、「泣いてねぇよ」と首を少し振って苦笑いをかまされる。
そんなこと知ってるよ。
「お前は作り笑いが下手だ…」
「きっと上手すぎる相方のせいだろうな」
「嘘つくのが下手なんだ」
「悪かったな」
「ローランサン」
僕はゆっくりと心地のよかった枕から頭を離し、片手を柔らかくもないベットの上に置いて上半身を支えながら、もう片方の手でローランサンの遠い方の腕の手首を掴んだ。彼は困惑していたが、構わずその手首を握るのに力をこめ、手のひらを開かせて、自分の右胸に押し当てた。ローランサンの体が、腕が引っ張られたことによって自然とこちらに向き、その藍色の瞳に自分が映る。僕は目をそらさないようにして、シャツ越しにローランサンの手のひらの温かさを感じ、握った手首から脈を感じ、そして彼に確実に自分の心臓の音を伝えた。彼は目を丸くして驚いている。僕は自分の心臓の音が次第に早くなっていくのに気付かれないためにもさっさと口を開いた。
「僕は生きてるんだ」
ローランサンは何を言い出すのかというような顔をしたが、そのあとにあからさまに苦い顔になり、そっと目を逸らそうとし出したので、僕はそれを阻止するためにも彼を見つめている視線に力を込めた。彼は苦しい目をして、それを僕は彼の理解力がないせいだと思い込んだ。
ローランサンは憂鬱そうな口で切り返した。
「見りゃわかる」
「わかってない」
「俺がお前を指差して死体だと言うような人間にでも見えるのか?」
「そうじゃない」
「あー、もう、わかった。下らない話は終わりだ、朝食にしよう。お前の話はいつも難しすぎる」
「お前は何も見えちゃいないし何もわかってない」
「…おい、もう止めろ」
「ローランサン聞いてよ」
「イヴェール」
「こっちを見ろ!僕は」
「いい加減にしろ!!!」
狭い部屋中に響いた耳が切れるようなローランサンの怒鳴り声にびくりと心臓が大きく跳ねる。そしてすぐにしまったと思った。それはすぐに僕の胸に手をあてていたローランサンに伝わってしまった。そして彼自身も自分の発言に驚いて、どうしようもないように俯いてしまう。胸の激しい鼓動はすぐには収まってはくれず、手を離せ、と低い小さな声が聞こえたので、僕は力が抜けるようにローランサンの手を離す。しかしそのやり方がまた逆効果で、さらには僕の手は震えてしまっていたので、きっと僕がローランサンに怯えているように感じたのか、彼は何度も後悔するように俯いた頭を振り、髪をかきあげたり手で顔を覆ったりして、涙のようなものが混じった溜息をつきながら「悪るかった」とさっきよりも小さな声で繰り返した。
「違う、お前はいいんだ…俺が悪かった…心配すんな、もう大丈夫だから…悪かった、イヴェール、悪かったよ…」
その空気のような呟きに対して僕は精一杯に首を振ったが、声を出す勇気はなく、俯いて僕を見ようとしないローランサンにその行動は意味がなかった。そのままローランサンは、やはり顔を合わせようとはしないで、ベットから無言で抜け出して、近くに脱ぎ散らかされていたシャツを拾い上げ、袖に腕を通しながら洗面台へと行ってしまい僕には見えなくなった。その後に僕は、自分の言動が少しずれて伝わってしまったことに気付くのだ。
生とは死の予告でしかないではないか。
(どうか不安がらないで)
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イヴェるん失態。
ロラサンは少し前世の夢をわけのわからぬまま見たりするんだといい。
ロラサンは花子さんをイヴェと自然に置き換えてしまうので困ったもんなんだね。