「なぁ、これなんて読むんだ?」
 
 
 さっきウエイトレスに渡されたメニューを指して、いつものように聞くと、イヴェールは溜息をひとつついて声を細めて言った。
 
 
「恥ずかしいからそういうことは小声で言え。少しは場所を考えろ」
 
 
 そう言われてあたりを見回してみる。緩やかなピアノの音楽が流れるそこは、床のフローリングは綺麗に磨かれ、所々に置いてあるテーブルには汚れ一つ付いていない純白のテーブルクロスがかけられている。その上には銀の装飾が施された蝋燭立て、美しい花を添えてある花瓶。どれも売ったらきっと高そうなものばかりだ。そこにいる人々は綺麗な服を着て上品にテーブルにある皿の上の食べ物を口に運んでいる。
 聞こえないように舌打ちをすると、聞こえてしまったらしいイヴェールに足を思いっきり踏まれた。
 
 
「だから俺は来たくなかったんだ」
 
「最初は、はしゃいでたくせに」
 
「お前だろ」
 
 
 いい金が入ったのなら一日ぐらい贅沢してもいいじゃないか。と、そういう話の方向に流れていったのは、さていったいどちらのせいだっただろうか。
 俺の足を踏んでいた足をどけると、イヴェールはメニューを取り上げ、上から順々に読み上げていった。それを黙って聞いてみるが、結局なにがなんだか良く分からない料理名ばかりで理解できなかったので、イヴェールに任せることにした。
 
 注文を聞きに来たウエイトレスに丁寧に答え、上品に振舞う相方の姿をじっと見つめる。まさかこんなやつが盗賊をやってるなんて誰が思うだろうか。ウエイトレスが去った後、イヴェールはこちらに視線を戻し少し苦笑いをした。
 
 
「母さんや父さんが居たときはたまにこういう所に連れてってもらってたんだ」
 
「そーか」
 
 
 どうにもその顔が見てるのが嫌になり、視線を別の方へと移す。綺麗に盛り付けられた皿を持って正装したウエイター達が通り過ぎる。自分にはなんて似つかわしくない風景なのだろうか。幼いころから、薄汚い部屋で暮らし、薄汚い金で腹の足しにしている自分にとって、こんな明るい場所は初めてだ。そんな自分にはこうも似合わないのに、それが目の前にいる、いつも一緒に同じように生活しているはずの相方はすっきりとその枠に収まっている。むしろこっちの方が…
 
 
「お前はこっちの方が向いてるんじゃないのか?」
 
「え?」
 
「俺と違って学はあるし、仕事なんていくらでもあるじゃないか」
 
 
 そう言うと、イヴェールはきょとんとした顔をし、その後、腹を抱えて笑い出した。
 場を弁えているのか、ちゃんと声は堪えているが、そのせいで肩がぷるぷると振るえている。机を片手で音を立てないように軽く叩きながら、俺の顔を見て、また改めて笑い出した。笑う理由が皆目わからない俺はただ顔を赤くするだけだった。
 
 
「……何が可笑しい」
 
 
 一頻り笑い終えて、呼吸を整えイヴェールは向き直った。
 
 
「今更何を言い出すんだよ。なれない場所のせいで頭が可笑しくなったのか?」
 
「真面目に言ってるんだ」
 
 
 
「お待たせしました」
 
 
 
 話していると、さっきのウエイトレスが、スープを二皿持ってきてテーブルの上に置いた。その後にそのスープの説明をしだして、もちろんなにがなんだかさっぱりわからないが、そのまま去っていった。食べるのに夢中になってしまって、話しはそこで中断されたことにも気付かない。その後も肉や魚の料理が次々と出てきて、最後にデザートを食べて、腹を満たしたところで、今まで味わったことのないような天国は終わる。
 
 
 下宿舎に帰り、シャワーを浴びて、寝る準備をし、それから「何故一度に料理がこないのか」と問うてみれば、イヴェールはいよいよ声を張り上げて笑い出した。帰り際に掠めてきた食器を磨いていた手を止め、手元にあった枕を全力で馬鹿笑いしている相方に向かって投げつけた。
 
 
 
(純白のテーブルクロスで隔離されたテーブル下のような)

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結局は今の生活がお似合いな二人。
ロラサンはイヴェに読み書きを習ってるといいと思うよ。
小説になるとイヴェがまともになる。何故なのよー。

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