わけも分からぬまま、いきなり瞳に映る画面が部屋の薄汚い天井に変わる。そしてすぐ背中に衝撃が走った。古い木がギシリと軋む音を耳で聞き取る。何事かと、相方の銀色の髪が揺れるのを見て、今自分はベッドの上に仰向けに放り出されたことにようやく気付いた。放り出した犯人はもちろん、目の前にいる相方だ。なんたって、部屋には自分とそいつの二人しか居ない。
「おい、いきなり何…!?」
文句を言い終わる暇もなく今度は冷えたハンドタオルが顔に投げつけられた。視界が今度は白に変わる。
反射的に上半身を起こそうとすると、もの凄い力で堅いベッドに押し付けられて、その上からモーフを被せてきた。顔面に張り付いたままのタオルをイヴェールが取り上げると、それを綺麗にたたみ、仰向けになっている俺の額の上に置いた。
「何がしたいんだよ?」
「こっちが聞きたい」
いきなり低い声で言われたので、モーフを跳ね除けて起き上がる予定を取り消して相方の顔を見る。いつもの呆けた顔と違い眉を寄せキッと睨みつけてきた。それから、眉間に皺を寄せたまま機嫌悪そうに水差しからコップに水を移しそれをベッドのすぐ横にあるテーブルの上に乱暴に置いた。そのせいで、コップに入っていた水の水面が激しく傾き、液体がガラスの壁を越え、木で出来た机の上にこぼれ落ちる。
「そんなに熱があるなら言ってくれればいいのに」
「………別に大したほどじゃない。少し寝れば治る」
「じゃぁ今寝ろ」
「おい!今夜は仕事だってお前が言っただろ!」
イヴェールが、今泊まっている宿から少しはなれたところにある宝石店をターゲットにすると言って、昨日の夜その店の設計図を開いてみせたのだ。計画は完璧だし、なんの護衛も置いていない宝石店なら易々と入り込めるだろうと自慢げに話していた。それに、宿代で所持金が危ないことになっていたので調度よかったのだ。
だから昨日の晩から体調が優れていないことぐらい気付いていたが、あえて黙っていたのに。
「僕が計画を立てたんだ。僕一人で十分だ」
「ふざけんな。俺も行く」
「そんな体じゃ足手まといだ」
そう言うと、とっさに起こしていた上半身をまたイヴェールは乱暴にベッドに押し戻した。病人とわかっているならもっと労われと言いたくなるが、それを言ったら仕事に行けなくなるにきまっている。
今度こそと体を起こそうとすると、今度は肩に両手を置き、両足で俺の体をはさむ様にして馬乗りになってきた。イヴェールの丁寧にリボンで束ねられている銀色の長い髪が、肩から流れ落ちて身動き取れない俺の頬に触れた。
イヴェールはゆっくり微笑んで、自分の額を俺の額に重ねる。宝石をそのまま埋め込んだような、赤と青の瞳に自分の顔が映るのが見えた。
「大丈夫。いつも通り分け前は半分だから」
「そういう問題じゃないだろ」
「交渉は明日お前にまかせる」
「そうじゃなくて…てか、離れろ!」
肩を押さえている手を振り払おうとしたが、どうにも力が入らない。それどころが、さっきより顔が熱い。激しく動いたせいで熱が一気に上がったのかもしれない。いつもなら、イヴェールぐらい細身のやつは軽々と持ち上げられるし、その気になれば腕の骨の一本や二本折る事だって困難ではないはず。
「ほら、やっぱり足手まといだ。そんなに焦らなくても、風邪なんてうつらないよ」
「なっ……」
腹の底を暴かれたような気分になって言い返せないで居ると、イヴェールは額を離し、いつのまにか落ちてしまったハンドタオルを手に取りベッドから降りた。もう一回濡らしてくると言って洗面所のほうに歩いていった。
戻ってきて、タオルを俺の額の上に置き、予め用意してあった道具などを持って、
「安心しろ。ヘマなんてしないから」
そう言って小さく微笑んで出て行った。
扉が閉まり、いきなり静かになった部屋で、熱のせいで火照った顔を冷やそうと、丁寧にたたんであったタオルを乱暴に広げ顔を覆う。
窓の外に浮かぶ月の光が自分のことを笑っているようで、またよけいに熱が上がった。
(近いんだよあの野郎!)
―――――――――――――――――――――
ロラサンは激しくヘタレです。なんかイヴェロラっぽくなっちまったぜ。
まぁ、攻っ子がヘタレだからしょうがない。ヘタレだから。
イヴェはロラサンのことなんでもわかるんだけど、ロラサンはイヴェのことなかなか気付いてあげられないとこがあって、自分でムシャクシャしてると萌える。