女物の香水をつけて朝方帰ってくるような奴が僕が寝るシーツに触れるな!
少し眠ろうとベッドに入ろうとした瞬間、罵声と共に二日酔いでぐらぐらする頭をぶん殴られる。床に尻餅をつき、冷ややかな目線で見下してくる相方を睨みつけ手探りで近くに落ちている分厚い本を手に取った。
「とんだ不良だな!僕はそんな不健全なやつと相方になった覚えはない!」
「俺だって男だぞ?逆に健全だ!どこの女とやろうが俺の勝手だろ!」
そういい終わるとすぐに先ほど投げつけた分厚い本が飛んできた。寸前のところで頭を低くして避ける。俺達の所有している本の大半はイヴェールのもので(俺は本なんていう文字の羅列の集合体は理解できない)、あの本もイヴェールのものだ。何度か読んでいるところを見た覚えはあるが、もう読み終わってしまったのだろうか、容赦がない。すこし振り返って本の行く末を見てみれば、どさっと本が開いた状態で床に落ちた。いや、叩きつけられた。そのせいで文字の羅列がプリントされた紙は不運なことにぐちゃぐちゃである。
のんきなことを考えていたら、イヴェールのほうに向けてしまっていた後頭部にまた別の堅いものが鈍い音をたててぶつかった。床に落ちたものを見れば、これまた本である。こいつがどこからかもってくる大量の本は読むためでなく、凶器に使うためではないのだろうか。
「なんで俺がお前に生活を縛られなくちゃいけないんだ!」
「お前の生活なんて微塵も興味はない。だけど僕は香水の匂いが大嫌いなんだ。反吐が出る!匂いが消えるまで部屋に入ってくるな!」
「ふざけんな。なんで俺が出てかなくちゃならないんだ?だいたいこんなこと初めてじゃないだろ!」
「その度に僕はお前に言ったぞ!出て行け、頭から馬糞被って来られた方がまだましだ!」
罵声が飛び交う中で、いくつかの本や小物が犠牲になっていった。壁も床も被害にあっている。ここが宿で俺達は客で、そしてこの隣も下も上の部屋にも他の客が居るということは忘れてはいないが、今はそんなのどうでもいい。
「いい加減に学べ!!」
「いい加減に懲りろ!!」
言い放って近くにあった、まだ被害にあってないグラスを手に取った。他のものは原型は留めているものの本来の用途ではもう使用できないであろう形に変形してしまったものばかりだった。床に散らばった本だってもう焚き火でもするしかしようがない。
手で握っているグラスを投げようと、足を一歩踏み込んだところでイヴェールが持っているものを見た。
懐中時計だ。それは俺のものでも相方のものでもない。第一そんな高級なもの・・・
「ば、馬鹿野郎!待て、おまっ・・・」
言い終わる前に反射的に体が動く。持っていたグラスを放り投げ、そのせいでソレも使い物にならなくなってしまったのだが今はいい、数歩前に出て振り上げられた相方の右手を掴み、その勢いのままイヴェールを押し倒す形で床に倒れこんだ。
うぎゃ、とイヴェールの悲鳴が聞こえて、はっと気付き手で体を支え上半身だけ起こして、イヴェールも右手にある盗品の無事を確認する。これは本来の用途を失ってもらっちゃ困るのだ。結構な年代物らしく、かなりの値段で売れるはずだ。破損が見つかれば値段は急激に下がってしまう。
破損のないことがわかって安心したところで、部屋の有様を改めて見せ付けられた。壁紙が所々破れ、傷だらけの床の上では本やガラスの破片が散らばっている。本はいいとして、ガラスの破片が散らばってるとなると易々歩き回れない。と、いうか壁紙の張替え代に床の修理代。そして破損した日用品の買い替え・・・
考えるのを放棄することにした。溜息とともに腕の力が抜けイヴェールの上に倒れこむ。
「重い、くさい・・・」
「うるさい」
イヴェールの胸に顔を埋めた。もう二日酔いの頭痛はすっきりと治っている。その代わりに普段使わない頭を使って無理矢理所持金の計算をしている自分を止めるのに苦労する。ああ、駄目だ、やっぱり頭が痛い。こんなことになるから、数字も金も女も酒も大嫌いだ。
「お前、わざとだろ。その時計」
「・・・・・・」
「おい」
「・・・・・・」
イヴェールを見るとそっぽを向いている。本気でわざとなのか。しかもこいつの場合、本当にやりかねないから怖いのだ。
「・・・わかった、イヴェール・・・その、悪かった」
「別に・・・」
昨日は酒の勢いだった。それでも相方を仕事以外で予告なしに放置したのだからそれはやはり悪かったのだろうと冷めた頭で考える。もしかしたら無駄な心配をかけてしまったのかもしれない。
もういい疲れたと小さく呟く相方に心の中で同意する。ここまでやったのも久しぶりだ。口喧嘩ならよくするが、大抵、イヴェールがまとめるか、俺が折れるかですぐにかたがついた。なのだが、今日は、さてどうしたものか。
なんだか二日酔いより頭を痛めて悩んでいるような気がすることに気付いたとき、イヴェールの胸に顔を埋めていた俺の頭をイヴェールがそっと撫でた。日ごろの手入れなんてしたことがない痛んだ髪をもてあそび、指に絡ませたりかきあげたりしながら、ぼそりとさっきと同じように小さく「ローランサンの匂いがいいんだ」とイヴェールが呟いたが、俺はそのときの相方の表情を見忘れた。急いで顔を上げ、イヴェールを見たときにはにんまりと、こいつが巧みに使いこなす作り笑顔の中で一番魅力的な作り笑いで、そして優しくはっきりゆっくりと、言う。
「冗談だ。驚いた?」
一気に全身の熱が上がる。自分で鏡を見なくても分かるぐらい、今の自分は顔は真っ赤であるに違いない。今度は本気で、しかし今度は魅力など感じさせずにけらけらと笑う相方からさっと離れて立ち上がる。
「シャワー浴びてくる、から!」
未だに床に転げたまま笑い続ける相方を無視して、散々な床をどかどかとわざと足音をたててシャワー室に向かった。脱衣所に入りドアを閉め、服も脱がずにそのままへたり込む。今日はなんて散々な日なんだと、まだ太陽も昇り始めたばかりだというのに、今日はきっと何もいいことなんてありはしないと、相方の態度に思い上がってしまった自分への罰として言い聞かせた。
(それでもやっぱり少しくらいは)
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長い。盗賊sの喧嘩シーンが書いてみたかったから、勢いで。しかしぐだぐだ。長いよ。
拳で語り合う前にものが飛んでくる盗賊s。ろくでもないことのために自分を犠牲にするのが嫌いなんでしょうね。
嫉妬してほしいロラサンと、何枚も上手なイヴェ。あーでもやっぱりぐだぐだ。