火傷を負った右腕がズキリと痛む。その腕をイヴェールが丁寧に包帯を巻いていた。それでも、隣に相方が居るにもかかわらず、自分が今感じているのは炎が全てを焼き尽くした後に残る煙の匂いだけだった。
「お前は馬鹿か」
ふと耳に入った声に顔を動かす。相方の方を見れば、自分の右腕の火傷の傷を悲痛に見つめているオッドアイが静かに揺れている。イヴェールが強く目を瞑った。眉を眉間に寄せ、唇を噛み締めて、手が震えて。その振動が妙にリアルに右腕から伝わってくる。
視線を外し窓越しに夜空を見上げる。半時前までは夕日より紅く染まっていた空も今は落ち着いていて星がちかりちかりと光っていた。それでも外からは微かに人々のざわめきの声が聞こえる。さっきの騒動はまだきちんと片付いていないようだ。
「お前の責任じゃない」
「なんのことだ」
「・・・・・・」
イヴェールが何が言いたいのかはわかった。それでも、駄々をこねる子供のようにそれを否定する心が自分のどこかに埋まっているのだ。
火事があった。
調度、イヴェールと明日の食料を買いに市場に出かけていたところで、そこの近くにあった一件の家を炎が襲っていた。ただ何もすることができず呆然と佇んでいる人々の中で火傷をおった少年が自分の服のすそを力強く引っ張っていた。すすと涙でぐちゃぐちゃの顔でこちらを見ながら小さな口を懸命に動かして言ったのだ。
「タスケテ」
記憶が曖昧で、いつのまにか炎で包まれている家の中にいて、その奥で泣き喚きながら自分の母親と父親、それから兄の名を呼ぶ少女の声が耳が張り裂けそうなくらいの音量で聞いた。何故だかもう炎の熱すら微塵も感じず、ただ無心に奥へ奥へ。
それから少女を見つけた。恐怖から身を守ろうと両腕で頭を抱え、がくがくと震えながらも喉が壊れてしまうぐらいの勢いで叫び続けている。
ふと少女がこちらを向いた。さっきの少年以上にすすと涙に塗れた顔でこちらを向いた。涙がたまった怯え縋る少女の瞳がしっかりと自分を捕らえる。その瞳を見て反射的に自分の右腕を少女の方に突き出した。そしてそれと同時に反対の左腕を誰かが力強く引っ張った。
立ち上がった少女のスカートに火が燃え移る。けたたましい悲鳴と共に天井が崩れ自分と少女の間を数秒でふさいだ。振り向いたら、銀色の長い髪を揺らすオッドアイの青年が自分の左手を強く握り締め、そして自分のことを強く睨みつけていた。
「お前の責任じゃないし、それに、目立つ行動はするなっていつも言ってたのははお前だ」
「俺が間違ってたのか?」
「違う!そうじゃない・・・。けど!もしかしたらローランサンがあの女の子みたいに・・・っ」
イヴェールが言い終わる前に右腕を掴まれていた腕を振り払う。それにイヴェールはギクリと敏感に反応した。まだ巻き終わっていない包帯がするすると流れ床に落ちていく。それを見つめながら何をやっているんだと自分に問いかけた。それでも脳が勝手に口を動かしていく。
「イヴェール、頼むから今はどっか行ってくれ。俺に話しかけるな」
しんと沈黙が騒ぎ立て、自分と相方の間を通り過ぎる。数分してイヴェールが小さく「わかった」と呟いた。それから足音が部屋の扉へと向かっていく。
違うんだ。行かないでくれ。しかしそれが声にでない。
「すぐこの街を出るから、準備しておいてくれ・・・それから」
いつも以上に弱弱しい相方の声が扉の開く音と共に聞こえた。
「お前は優しすぎるんだ」
違う。違うんだ。あの少女を助けようとしたのも、建物が崩れることがわかっていてそれでも右腕を伸ばしたのも優しさなんかじゃない。
ガチャリと重々しく閉まった扉の音を聞いて、壁にもたれかかった。そしてそのまま床に崩れ落ちる。自分の体が重すぎてもう立っていられないのような錯覚に襲われたのだ。もう何もかもが考えられなくなる。イヴェールが悪くないのなんてわかっている。それなに、この何者かわからい感情を外に吐き出さなくては潰れてしまいそうなのだ。誰かを責めないと、もう自分は駄目になってしまう。
あの時、イヴェールがしっかりと掴んでくれた左手を額にあてた。それから長く伸び視界にちらつく鬱陶しい前髪をかきあげる。それでも見える風景は変わらない。緋色に燃え上がる風車。
あの少女を助けようとしたのは優しさなんかではない。
毎夜、夢に出てくる見知らぬ少女が自分をずっと責めるのだ。
「許サナイ」
(ほらまた失敗ただの繰り返し)
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久しぶりにシリアスを書いたような・・・あれ?もしかして初めて?
うちのロラサンは一応風車少年とは別人なのですが、生まれ変わりということで緋色の花子さんにはめっちゃ恨まれてます。
だから夢とか幻覚とか幻聴とかでロラサンを困らせてます。
緋色の風車で出てくる少女の声は私は「待って、ローランサン」説を推薦したい。
盗賊ロラサン(間違えて寅さんって売っちゃった☆テヘ)は口ではツンツン言いながらも根っからのいい人属性だと思います。
でもその優しさは前世への償いの気持ちからきてるんだっていうはい妄想妄想。