「意味が分からない。ふざけてる。もう本当に冗談じゃない」
さっきから同じような言葉を吐き捨て続ける相方に無意識的に溜息をつき、はっと気付いて相方の顔色に目をやった。さっき本当に鬱陶しすぎて舌打ちしてやったら白く細い女のような足で大男のような蹴りを顔面にくらわされたところだった。相方、イヴェールはと言うとまだぶつぶつと文句を垂れ流している。どうやら溜息はイヴェールに届かなかったようだ。せっかくの綺麗な顔を歪めて椅子に今にも暴れだしそうな勢いで座っているイヴェールの片足を手に取った。冷たい床に腰を置き、白い肌に生々しく溢れ出ている血をふき取る。良く見たら足首のあたりが腫れている。軽い捻挫か、完治に時間がかかりそうだ。
そっと傷に消毒液を垂らしたところで、自由な方の足がまたもや顔面に飛んできた。
「ってぇな!お前もういい加減にしろよ!」
「もっと優しくやれ!こっちだって痛いんだ!!」
「それは俺のせいじゃねーだろ!」
俺が優しくしようがしまいが消毒液は傷に沁みるものだ。
もう明らかに八つ当たり。これだから不機嫌なこいつは大嫌いだ。扱いにくい上、一回機嫌を損ねるとずるずると何日も引きずり、その原因が何であれ昔からずっと俺に当たる。ここでイヴェールのたった一人の妹が手当てをしてやれば、このシスコン野郎の機嫌なんてすぐよくなるのだが、残念なことに俺たちの仕事の関係で妹とは離れてしまっている。
ノエル、お前にここまで会いたいと思うのは初めてだ。
「本当に意味が分からない!あの黒猫!今度会ったら八つ裂きにしてやる!」
普段は穏健なイヴェールからしたら考えられないような言動に少々恐怖を覚え、その黒猫のことを思い出した。
イヴェールが珍しくヘマをしたのだ。それも損害がかなり大きい。
例のごとく、盗賊である俺たちは盗賊らしく、適当に富豪の家に忍び込み、適当に金目のものを袋いっぱいに詰め、そして華麗においとまする・・・はずだったのだが、その豪邸の警備員から逃げている途中、高い塀を越えようとしたところで、イヴェールは盛大にこけた。というか落ちたという方が正しいのだろう。なにしろ塀の上からだ。どこからともなく現れた黒猫が優雅にイヴェールの肩に飛び乗った。それに驚いたイヴェールが塀の上でバランスを崩して、そして落ちた。
「はぁ?猫?」
突然の出来事にイヴェールが素っ頓狂な声に猫が礼儀正しくにゃぁと答えているとこで、俺はイヴェールが持っていた宝石やら銀食器やらの入った袋がぶちまけられていることに気付いた。やばいと思って拾い集めようとしたところで時、既に遅し。警備員が追いついてきたのだ。散らばった宝石と右足を抱えている相方を見比べ、あーもうと相方をさっと抱きかかえ、全力で疾走した。
「男一人抱えて警備員5人から逃げ切った俺をまず称えてくれ」
収入は俺が持っていた盗品だけ。損害はきっとそれ以上の金と相方の利き足の怪我。
今夜の収入だけでは一週間もっていいほうだろう。それに相方がこの状態じゃぁ当分は大掛かりな仕事はできないだろう。俺一人でやればいいのだが、こういうときに自分にイヴェール並みの器用さがあればと思ってしまう。
「よくやった。ついでに今日の夕食はお前が作れ」
「おい、今日はお前の番だろ」
「足が痛くて立てな・・・っあぁ!」
足首の腫れている部分を軽く触ってみた。すぐさま飛んでくる蹴りを空いている右手で受け止める。イヴェールを悪戯っぽい笑みで見上げたら、キッと睨み返してきた。俺に掴まれた両足をどうにか解こうとじたばたするが、残念、力は俺のほうが上なのだ。
「ローランサン!放せ馬鹿!!」
「反応を見る限り本当に痛むようだな」
「ぶっ殺してやる・・・」
「できるのか?お前が俺を?その足で?」
「・・・っ!」
言葉を失ったイヴェールがより一層強く睨みつけてきた。相当痛かったのか目が少し涙目だ。軽く触れただけでこれじゃあ綺麗に治るのはずっと先のようだろう。中途半端に治った状態で仕事をするのは、状態が悪化したり、またヘマしたり、と恐れがあるので望めない。金が底をつくまでに治ってくれればいいが、高望みはしない方が吉だ。とすると小さいながらも自分だけでできる仕事でなんとかするか。酒場に行けば仕事の情報など腐るほどあるだろう。
すっと立ち上がり、未だに睨み続けるイヴェールの銀髪の頭にぽんと手を置く。
「で、坊やは何が食べたいんだ?」
今度は拳が飛んで来たがそれを軽く受け流して残っている食料を確認しに行く。背中で暴言を聞きながら、少々堅くなったパンと肉を手に取った。
(そして心地の良い夜には鼻唄でも添えて)
――――――――――――――――――――――――――
次の日からイヴェールは雑用を相方に全て押し付けます。所詮ヘタレ。
仕事のとき鍵開けとか細かい作業がイヴェで力作業がロラサンがやってたらいいなぁと。